Rat bite fever

 

げっ歯類の口腔に常在する2種類の病原体、

 モニリホルムレンサ桿菌および鼠咬症スピリルムによる感染症。

世界中でみられるが、前者はアメリカに多く、後者はアジアに多い。


Streptobacillus moniliformis
モニリホルムレンサ桿菌 多形性、非運動性、非芽胞形成、無莢膜のGNR

保菌しているラットに咬まれたり、引っ掻かれたりして感染(しかし30%ではラットに咬まれたり引っ掻かれたりしたエピソードがない)。ネコ、イヌ、イタチなどげっ歯類を捕食する動物から感染することも。げっ歯類によって汚染されたミルク、水による集団発生も報告されている。


臨床症状

 汚染して2-10日後、突然の悪寒、発熱、頭痛、嘔吐、筋肉痛などインフルエンザ様の症状で発症。発熱は不規則に繰り返す。

 発熱後2-4日以内にかゆみのない点状の丘疹、水疱、膿疱が出現する(手掌・足底にも)。

 皮疹と同時か、数日以内におよそ50%で非対称性多関節炎や化膿性関節炎を発症。


 抗生剤を使用しなくても3-5日で解熱。症状は2週間以内に徐々に消失する。発熱は数週間・数か月間は不規則に再燃することも。


合併症

 心内膜炎、心筋炎、心外膜炎、敗血症、髄膜炎、肺炎、羊膜炎、貧血。脳・肝・脾・腎・皮膚など全ての臓器で膿瘍を形成しうる。

死亡率:13%


診断

白血球は30,000近くになることも。25%近くが梅毒血清検査偽陽性。

 血液・関節液・膿瘍からのGiemsa、Wayson、Gram染色で多形性の桿菌を認める。

 培養には血清、血液、腹水、あるいは他の体液を必要とする。最近は特異的PCRが行われている。


治療

★大人

 ペニシリンIV20万単位、4時間毎×5-7日間。

 臨床的に改善していれば、その後経口ペニシリンやアンピシリン500mg×3を7日間。

 ペニシリンアレルギーのある場合は、テトラサイクリン500mg×3やドキシサイクリン100mg×2。


★子ども

 ペニシリンIV2万-5万/kg/日を6時間おき×7-10日間。

 最大120万単位/日まで。

 ドキシサイクリンは歯の黄染をおこすので、少量短期間で。


予防

 有効性は不明であるが、ラット咬傷後、経口ペニシリン

(大人2g/日、子ども25,000-50,000単位/kg/日)3日間。

 ラットを取り扱うときは手袋着用、ケージの清掃。


Spirillum minus  鼠咬症スピリルム


いまだ分類上の位置づけは明確でない。短く厚い、グラム陰性、好気性で運動性を有するらせん状の菌。鞭毛をもち、銀染色で染まる。


経口感染はない。ほとんどがラット咬傷による。ヒトーヒト感染はない。


症状

モニリホルムレンサ桿菌感染症と似ている。


咬傷はすぐに治癒するが、1-4週間後に痛み、腫脹し、紫色になる。局所のリンパ管炎・リンパ節炎が関与している。

レンサ桿菌感染症と異なる点として、関節炎・筋肉痛はまれである。咬傷が潰瘍や痂皮形成を伴う硬結になる。


発熱して最初の週は、スミレ色や赤茶色の斑点状皮疹が、四肢・顔面・頭皮・体幹に出現し、解熱している期間は消失する。時に皮疹は膨疹のことも。


抗生剤を使用しなければ、3-4日間発熱が持続し、3-9日間は解熱するという周期を規則的に繰り返す。この回帰は1-2か月間続くが、数年続いた事例もある。


合併症

 モニリホルムレンサ桿菌感染症と同じ。   死亡率:6-10%


診断

WBCは10000-20000が多く、50%近くが梅毒血清検査偽陽性。

特異的な検査やPCRは存在しない。

人工培地では増殖しないので、菌の証明は動物接種し、その血液・腹腔液を毎週観察。



国立感染症研究所、山梨大学の報告。

S.moniliformis特異的PCRを開発し、国内における野生ラットの保菌状況を調査。


ドブネズミ(R.norvenics)は92%、クマネズミ(R.rattus)は58%が保菌していた。