外来で戸惑う発熱疾患について
外来で戸惑う発熱疾患について
外来で戸惑う発熱疾患について
公益財団法人 慈愛会 今村病院分院 救急総合内科 西垂水和隆
公益財団法人 慈愛会 今村病院分院 院長 宇都宮 與
外来で発熱疾患をみて戸惑う事に、
・抗菌剤を投与すべきか?
・熱源がわからない
ということがあり、以下自分なりの考え方を示してみたい。
抗菌剤を使うということは、細菌感染症を診断することであるが、日常診療ではなかなかこれがわかりにくい。しかし以下の細菌感染の特徴を覚えておくと、肺炎などを見逃すことが減ってくる。(簡単にまとめると急性発症で局所症状があれば細菌感染症と考える)
発症様式として2パターン
・突然発症のパターン(いきなり悪寒戦慄で発症する肺炎球菌肺炎、腎盂腎炎など)
・ウイルス感染に引き続いて急性に(2峰性に)悪化するパターン(感冒後また悪化してくる副鼻腔炎など)
経過は1パターン
・細菌感染は増悪のパターン(だらだらと持続することはなく、昨日より今日が悪い)
臓器の2パターン
・基本的に一臓器を犯し、臓器特有の症状が出る。両側にまたがる臓器の場合は左右差がでる。(腎盂腎炎、扁桃腺炎、精巣上体炎など)
・血流感染では多臓器にまたがるため、臓器特有の症状がでない。
全身状態のパターン
・表現しがたいが、何となく”ばい菌にやられている”という感じがあり、食欲低下や全身倦怠感が強い。悪寒戦慄があれば、ほぼ細菌感染と考えて良い。(悪寒戦慄の定義は、30分以上持続するベッドが震えるぐらいの悪寒)
疫学的なパターン
・基本的に若年者が細菌感染にかかることは少なく、かかる場合も尿路感染、軟部組織感染、肺炎、扁桃腺炎などと大体決まっている。
検査のパターン
・CRPは細菌感染の診断として単独で使ってはならない。経過の早い時期では当然CRPは陰性である。3日以上の経過にも関わらずCRP陰性であれば、細菌感染は考えにくい。(結核は別)
ちなみにウイルス感染を思わせるパターンとしては、
・症状が多臓器にまたがる(鼻水、咳、下痢など)
・来院までに時間がかかる(症状が軽い)
・臓器特有の症状がない
・若年者に多い
・炎症反応が日数が経過しても上昇しない
・全身性の小リンパ節腫大や後頚部のリンパ節腫大
・小児との接触歴あり
膠原病も発熱の原因となるが、発熱のみという状況は血管炎以外ではあまり見られないため、診断がつきにくいということは少ない。
悪性疾患の発熱は血液疾患がほとんどであり、繰り返しの血液検査や画像検査が必要になることが多い。
この原則で数例のケースを考えてみる。
36歳男性 5日前に感冒症状(鼻水、咽頭痛、咳)があり、咳だけ残っていた。昨夜急に39℃の発熱があり、咳も悪化して受診した。・・・2峰性であり臓器は下気道がメインなので肺炎。
85歳男性 総胆管結石の既往あり。昨夜いきなり悪寒戦慄があり、39℃まで上昇。今朝は何ともないが念のため受診。・・・悪寒戦慄があり、細菌感染の可能性高い。臓器の症状がないが、既往疾患と一過性という臨床像から、一過性の胆管炎と考えられる。悪寒戦慄があれば抗菌剤投与前の血液培養は必須。
40歳女性 4日前より頭痛と発熱、嘔気あり来院。意識清明。CRP陰性。・・・一臓器を犯しているが、来院まで4日と長く、細菌性髄膜炎は考えにくい。4日経過してもCRP陰性でありウイルス性疾患を考慮する。(ただし結核性髄膜炎などでもCRPは陰性)
60歳男性 2日前より鼻水、咽頭痛、咳、微熱あり。本日39℃となり受診。・・・のど、鼻、せきと多臓器に別れており、ウイルス性疾患を考える。
55歳男性 昨夜39℃の熱発あり、他には症状無し。今朝左鼠径部がやや痛いが、他は何ともない。・・・局所の症状があり、診察すると左鼠径部リンパ節の圧痛あり。よく見るとリンパ管にそって下腿部分に軽度発赤あり、同部位に軽度圧痛あり。蜂窩織炎と診断。(軟部組織感染症で感染部位よりも所属リンパ節の腫脹と痛みが先行する事は結構みられる。局所のリンパ節腫脹で圧痛などがあれば、細菌感染を考えて周辺を観察する)
24歳男性 10日ほど前に39℃の発熱。その後38℃いかないくらいの微熱と倦怠感あり。下肢のかゆみがあるが、そのほかの症状無し。子供がその前に2日だけ熱発のみ。・・・局所の症状に乏しく、経過も長いため細菌感染は考えにくい。よくみると淡い発疹が全身にみられる。流行状況からパルボウイルス感染症と考えられた。(2010-2011年度はパルボウイルがかなり流行しており、当院でも20名以上の成人例を経験した。典型的には手足のむくみを伴う関節痛と皮疹、微熱で来院するが、心膜炎や脳炎などかなりバリエーションがあった。)
外来でみる発熱疾患のほとんどはかぜであり、かぜを除外して初めて表題の問題に突き当たることになる。つまり外来で抗菌剤を投与するということは、かぜを否定して、特定の細菌感染症を診断するということになり、かぜの診断がいかに大切かがわかる。
かぜ症候群についての文献1はまさに必読の文献であるが、かぜ症候群は表1の7つに分類され、これらと似ている細菌感染症をいかに否定してくかが述べられている。以下簡単に私見を交えながら紹介させていただく。
非特異性上気道炎型:はな・のど・せきの多彩な症状が同等に同時におこっている場合、自信を持ってかぜと診断する。
鼻炎型:副鼻腔炎との鑑別となり、7日以上の経過や膿性鼻汁に副鼻腔の痛みがあれば副鼻腔炎とする。個人的にはこれに膿性鼻汁、後鼻漏、鼻閉感、前屈時の顔面痛なども含めている。
咽頭炎型:溶連菌性扁桃炎を鑑別するためにCentorの診断基準を用いる。1発熱、2白苔を伴う扁桃発赤、3前頚部の圧痛を伴うリンパ節腫脹、4咳無しのうち3つ以上陽性であれば溶連菌の可能性が高い。個人的にはこれに左右差(扁桃腫大やリンパ節)、鼻水なし、扁桃腺炎の既往を加えると特異度があがると考えている。
気管支炎型:肺炎との鑑別となり、強い咳嗽、発熱持続、膿性痰などをあげている。当院では全例グラム染色で確認しており、必ずしもレントゲン所見を優先していない。
高熱のみ型:安易に抗菌剤を投与する事のないようにし、急性腎盂腎炎、急性前立腺炎、肝膿瘍、化膿性胆管炎、感染性心内膜炎を鑑別する。これに関しては表2のような疾患を個人的には考えて診療している。抗菌剤を投与する前に必ず血液培養を提出している。
微熱・倦怠感型:急性の場合、肝炎や心筋炎、細菌性心内膜炎が隠れている事があり、倦怠感が強い場合や経過が長い時は血液検査などを行う。慢性の場合は感染症の確率は減ってくるため、炎症反応をみて陰性の場合は心因性のものを考えて行く。
これら疾患を見逃さないように簡単に行う一分間診察法というものが紹介されているが、ここでは不明熱患者の簡単診察法として表3に述べる。
外来では発熱疾患は非常に多いものであるが、以上のような簡単な診察で明らかなフォーカスが不明な場合、全身状態にもよるが多くの場合、患者に説明して抗菌剤を投与せずに経過をみる方が良い。原因不明だがとりあえず抗菌剤を出すという姿勢よりも患者さんは納得してくれる場合が多く、その後の診療にも有益である。個人的には悪寒戦慄がないかぎり、フォーカス不明のままでは抗菌剤を出さないようにしており、何としても局所所見みつける努力は怠らないようにしている。(ただしフォーカス不明の場合、血液培養だけは必ず提出している)
参考文献
1. 田坂佳千:症例とQ&Aで学ぶかぜ症候群の診療―ガイドラインをめぐって―“かぜ”症候群の病型と鑑別疾患 今月の治療(2006) Vol 13 (12) 1217-1221
2. コロッケ会HP ”FUO check list” http://www4.atwiki.jp/croquette/pages/ 23.html